産婦人科病棟の壁には新生児たちのバースカードが貼られていた。

ギラギラと装飾をつけられているものが一つあり"寿愛爆誕"と書かれている。

よく見てみるとどれも変わっていて俗にいうキラキラネームの新生児が多いことに気づいた。

 

「お母さんにはてんかんの持病があるみたいです。発達に問題があるのでしょうか?」

「いやまぁ上の子を実家においてきてるし素行が悪いけど発達は普通やね。」

この母親が普通なわけないだろうが。

数時間前たくさんの笑顔に包まれながら児を見送った風景が嘘のように感じる。

 

他方では突然左半身が不自由になった老人が自分の左手を右手で介護して泣いている。

「この左手が馬鹿になったからね。なさけないね。」と言う。

 

一体それぞれにどれだけの違いがあるのだろうか。

目の前のことや現在のことだけに集中して生きることができたなら。

それほど違いは大きくないはず。

 

「一番楽しい時期やね。楽しみなさい。」と左片麻痺の老人に言われた。

 

浴槽にゆっくり水を貯めてじわじわと体に長く効くような幸せに浸かっていたい。

この老人も鋭い若さを振り回す母親もすべてその浴槽のなかに入れる。

 

「どんな子に育つのか楽しみです。」

幸せそうに児の指を握る笑顔の母親は目を向けられないほど優しい雰囲気に包まれている。

 

様々な現在が交差する場所のなかで児のコットはまさにその浴槽同然だった。